オヤツのオトモ(9)女の子尽くし
ケリー・リンク著、金子ゆき子・佐田千織訳
『スペシャリストの帽子』
ハヤカワFT文庫、2004年、840円

 女の子は甘くて素敵にネトネトした物で出来ている。空っぽで甘く、ひんやりとして歯に絡み付く、そして溶け出してしまうとらえどころのなさ。

 ケリー・リストの短編集『スペシャリストの帽子』にはそんな女の子が溢れている。鳥恐怖症の男の子を好きになるジューン。ジェニー・ローズが人間消滅する様子を観察しているヒルディー。既婚者としか寝ないルイーズとチェリストとしか寝ないルイーズ。彼女達は皆、女の子であって女であり、満足していて満足していなく、自分の欲しい物を知っていて知らない。その矛盾と揺らぎがあまりにも女の子らしい。

 この本の魅力は、筋立てよりも、現実とお伽話の不可思議な融合やねじれたハッピーエンドがもたらす空気にある。相反する要素がすんなり解け合っているその様は、まさに私が思い描く女の子そのものだ。

 女の子をイメージするケーキは甘くて酸っぱくて、固くて溶けそうで、色んな味がしないといけない。だから私は『ペルティエ』でケーキを沢山買って来て、ほんの少しずつ口に運ぶ。桃のムースはピンクに染まって甘酸っぱい。ショートケーキはクリームに苺の赤がじんわりと滲んでいる。そして、丸いメレンゲの爆弾のようなプランセスは、さくさくと蕩ける様に甘い。

 女の子を味わうための本には、女の子風味のお菓子をどうぞ。
*こちらのコラムは[書評]のメルマガ vol.172(2004.7.17発行)に掲載されたものです。

自宅にて