オヤツのオトモ(4)一つ勉強になりました。
深堀骨『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記』

早川書房、2003年、1700円

 出来心でした。その日は他に読む本がなかったので、つい買ってしまったこの本、SFの短編集なのだが、裏表紙にはどうにもおバカな感じの作品解説が。バフ熱って何?溜め意気を吐くコインロッカー?加藤剛をこよなく愛する諜報員って、一体、何を諜報するんだ?疑問に思いながらも、とりあえずレジへ。

 読み始めたら、疑問倍増。バフ熱にかかった棟方さんは食用洗濯鋏を作っているし、コインロッカーには、溜め息だけでなく「<ドナ・ドナ>か<フニクリ・フニクラ>か何かを鼻歌で」歌う可能性もあるらしい。加藤剛を愛する諜報員は、三重渦状紋がある材木に追いかけられて大慌て。舞台となる柴刈天神前に住む人々の、宮沢章夫的シュールな設定には乾杯だが、小説として上手いかどうかの判断がつきかねる。ほんとにこの本、読んでていいのかな。

 ぶつぶつ呟きながら左で頁をめくり、右手でオヤツを口に運ぶ。今日のオヤツは、有楽町の甘味処『おかめ』の『蔵王あんみつ』。うずら豆(と思われる)あんこが、ふっくらしていて美味。上にソフトクリームがのってるところも良し。でも私、ほんとは、あんこ物ってそんなに得意じゃないんだよね。それでもついつい食べちゃうのは、やっぱり美味しいからなんだよなぁ。

 ということは、「それでもついつい読んじゃうのは、やっぱり面白いから」なのか。上手いかどうかわからなくても、面白い本もあるんだなぁ。というより、面白いと思わせること自体が、もう上手いのか。一つ勉強になりました。

*こちらのコラムは[書評]のメルマガ vol.132(2003.9.15発行)に掲載されたものです。

有楽町『おかめ』にて