オヤツのオトモ(3)オンナゴコロって複雑ね。
『夜想2マイナス 0号 特集:シュヴァンクマイエル』
ステュディオ・パラボリカ、2001年、1,500円

 私はホットケーキ愛好家だ。お気に入りは、外苑前にある喫茶店『香咲』のホットケーキ。シロップをかけた上に、バターと生クリームをのせて食べるのだが、その姿を見ただけで幸せな気分になり、思わず頬擦りをしたくなってしまう。丸くてふかふかした物に、私は無条件に弱いのである。

 そんな、視覚と触覚が手に手を取って、幸せを予感させてくれるオヤツには、敢えて、逆の本をぶつけてみたい。有名なチェコの映像監督兼オブジェ作家、ヤン・シュヴァンクマイエルの特集本、『夜想2マイナス 0号』である。

 触覚を意識した作品を作るシュヴァンクマイエルの本は、見る者に嫌悪を感じさせるアイテムのオンパレードだ。骨と羽で出来た不可思議な生き物、引き出しから溢れ出る粘土、釘の入った食べ物、人形を喰らう人形、等々。

 恐ろしいことに、そのどれもが、生き生きとした様子で「サワリタクナイデショ。サワッタライタソウデショ。」と語りかけてくるのだ。あげくに、『嫌悪についてのアンケート』という、「触れるのに嫌悪を覚えるような」ものについてのコメントまで収録されていて、嫌な想像を更に脹らませてくれる。

 そして、一番恐ろしいことは、私が、そんなシュヴァンクマイエルの大ファンであるということだ。どうやら、丸くてふかふかした物だけでなく、ごつごつした嫌な感じの物にも、心のツボを押さえれてしまうらしい。仍て、シュヴァンクマイエルの本を手に、嬉々としてホットケーキを食べることになる。

 オンナゴコロって複雑よ。

*こちらのコラムは[書評]のメルマガ vol.124(2003.7.16発行)に掲載されたものです。

外苑前『香咲』にて