オヤツのオトモ(2)狩猟の達人
時雨沢恵一著『キノの旅−the Beautiful World−』1〜6巻

メディアワークス 電撃文庫、2000〜2002年、各490〜530円

 私は狩りが上手い。自分の好きな物に対して、勘働きがいいのである。

 例えば、久しぶりの大当りだった『キノの旅』。今迄、メディアミックスを念頭においた和製ファンタジーを歯牙にもかけていなかった。それが、「人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の物語」というコピーに、ピンと来た。

 主人公が様々な国を旅していく連作短編のシリーズで、まず、その国固有の常識設定がシニカルで可笑しい。例えば『過保護』という話では、小さな子供を出兵させるのに、両親が防弾チョッキを着せるかどうかで夫婦喧嘩をしている。また、旅先で起きる事件に対して、主人公が傍観者然としているところもいい。ファンタジーお決まりの勧善懲悪の結末を予想していると、良い意味での肩透かしを喰らう。ロードムービーのような淡々とした印象に、騙される歓びが詰まったこの作品は、私の獲物の中でもマンモス級である。

 家の近く(立会川)にある仏蘭西料理屋、『canvas』にもピンと来る物があった。ティータイムの時間に、パウンドケーキを頼んだら、フィナンシェの生地で作られていて、びっくりした。ありがちなもたついた感じがなくて、アーモンドオイルでしっとりしている。そのくせ、軽くて油っぽくないのだ。

 『キノの旅』を読みながら、パウンドケーキを口に運び、あぁ、今日の狩りも成功だったと満足する。そして、願う。この狩猟技術が、恋と金に役立つ日が来ることを。

*こちらのコラムは[書評]のメルマガ vol.116(2003.5.12発行)に掲載されたものです。

立会川『canvas』にて