オヤツのオトモ(1)小細工のときめき
『カバンの中の月夜〜北園克衛の造形詩〜』

国書刊行会、2002年、3,800円

 世に大好きは数々あれど、本、甘い物、可愛い物が何より一番、心の支え。仍て、自作のぬいぐるみ『ハラゴメカエル』のけろりいぬを持って喫茶店に陣取り、本を読みながらおやつを食べ、その顛末を書き留めることと相成った。

 私は乙女なので、小細工が好きだ。隠し味に心揺すぶられる。かといって、小細工ばかりのてんこ盛りに、騙される程のうぶではなし。力強い直球ストレートに忍ぶ、ありやなしやの隠し味にこそ、うっとりするのである。

 渋谷にある『青山シャンドン』のカスタードクレープは、まさに、そんな私の為の一品と言えよう。薄くしっとりとしたクレープ生地の中には、カスタードと生クリームがみっしり。皮とクリームだけの組み合わせに、上にかかった砂糖のざらついた触感が一味効いて、もう、何とも言えませんわ〜。

 こんなストレートで小技のきいた美味しさに対抗できる本と言えば、もう、これしかない。『カバンの中の月夜〜北園克衛の造形詩〜』である。切り取られた仏蘭西語の新聞、針金、小石、中をくり貫かれたバゲットなど、垢抜けた小品といったモチーフを撮影したモノクロームの写真で構成されたこの本には、シンプルな美しさが漂っている。

 その美しさに、より深みを加えているのが、被写体の影である。うっすらと物の形をなぞるような薄暗い線が、写真に、黒白の単純なメリハリ以外の何かをもたらしている。何だか、紙面に落ちる、頁の影までもが意味を持つように思えて来るから、不思議である。これこそ、キング・オブ・小細工、計算し尽くされた美しさが、これまた、何とも言えませんわ〜。

 そして、うっとりするばかりで何も言えない大人の乙女は、ただ只管、ものすごい勢いで食べ、且つ、読むのであった。乙女、もう少し、人生に小細工が必要か。

*こちらのコラムは[書評]のメルマガ vol.108(2003.3.10発行)に掲載されたものです。

渋谷『青山シャンドン』にて